百科全書解体――ユビキタス社会における民主主義の構想(Encyclopaedia for Democracy)

yoshimi-lab2005-05-26


開催趣旨

21世紀のメディア理論やメディア実践にとって、最大のテーマはテレビでもインターネットでも、携帯電話でもなく、むしろ百科事典(Encyclopaedia)であると言ったら、たぶん驚かれるでしょう。「百科事典」はこれまで、まさしく近代知の典型として、批判される対象でしかなかったのではないか、と思われるかもしれません。
しかし、たとえば近代日本の出版の歴史のなかで、百科事典の編纂は、数々の最良の出版社が、数千人に及ぶ執筆者を巻き込みながら何年もの歳月と社運を賭けて挑んだ壮大な事業でした。この一種の文化運動には、すでに読者との対話的構造や異なる学問分野の交差、人類の知識総体の構造化と歴史のなかでの現在の相対化といった問題意識が内包されていました。
今日、インターネットや様々な電子機器の普及のなかで、これまでのような大規模な百科事典編纂のプロジェクトは困難になり、巨大な検索エンジンや草の根的な書き込みによる書物知の解体が進んでいます。そのような中で、私たちは逆に、あえてメディアとしての百科全書に焦点を据えることで、これまで大学が集積してきた知の構造性や膨大な資料のアーカイブを対話的に内破していく可能性が拓けると考えます。百科全書は、近代知の形成期に登場し、啓蒙の精神のインフラとなり、やがて専門分化する知のなかで役割を相対化させてきました。近代知が根底から批判されて久しい今日、私たちはむしろこのような一見、前時代的なメディアにこそ、今日の脱領域化し続ける知を新たな地平に向けて構造化するヒントが宿されていると考えます。
このシンポジウムでは、現在、東京大学情報学環において展開されているエンサイクロペディア・プロジェクトや主要なアーカイブ・プロジェクトを一挙に紹介しつつ、世界規模の知識人ネットワークを生かして新しい百科全書の構築を進めているM・フェザーストン教授やS・ラッシュ教授など、英国のNew Encyclopaedia Project のチームを迎え、21世紀の民主主義、ないしは知的公共圏のトランスナショナルな構築を視野に入れたエンサイクロペディアの実験について論じていきます。

日 時 2005年7月13日(水) 10:30-18:00(10:00開場)
主 催 21世紀COEプログラム 次世代ユビキタス情報社会基盤の形成
東京大学大学院情報学環エンサイクロペディアプロジェクト
Theory, Culture and Society誌, New Encyclopedia Project
会 場 東京大学本郷浅野地区 武田先端知ビル 5Fホール
アクセス 最寄駅は千代田線根津駅
(会場は、地下鉄千代田線の根津駅から坂を上って徒歩約5分、
浅野正門のほぼ正面にあります)
言 語 日本語、英語(同時通訳付)
申 込 事前登録不要・参加費無料
お問い合わせ 東京大学大学院情報学環・学際情報学府 吉見俊哉研究室

プログラム

10:00 開場
10:30 開会挨拶 花田達朗 東京大学大学院情報学環 学環長
10:40 セッション「アーカイブ、エンサイクロペディア、新しい人文知」
  Archives, Encyclopaedia, and the New Humanities
  【報告】
  美馬秀樹     東京大学大学院工学系研究科 助手
   ・美馬エンジンと知の構造化プロジェクト
  石田英敬     東京大学大学院情報学環 教授
   ・メディア分析の智慧の樹プロジェクト
  馬場章      東京大学大学院情報学環 教授
   ・坪井家資料とデジタル・アーカイブ
  吉見俊哉     東京大学大学院情報学環 教授
   ・旧新聞研資料と戦争とメディアアーカイブ
  【討論】
  Scott Lash    ロンドン大学ゴールドスミス校 教授
  Mike Featherstone ノッティンガムトレント大学 教授
           Theory, Culture and Society誌 責任編集者
  港千尋      多摩美術大学 助教
  山内祐平     東京大学大学院情報学環 助教
   
13:40-14:50 休憩
   
14:50 基調講演 坂村健 21世紀COEプログラム拠点リーダー、副学環長
   
15:30 セッション「民主主義をひらく百科全書とは」
  Encyclopaedia for Democracy
  【報告】
  Mike Featherstone ノッティンガムトレント大学 教授
   ・新しい百科全書事業とグローバルな知識の問題化
  Scott Lash    ロンドン大学ゴールドスミス校 教授
   ・デジタルメディア社会の情報実践と新しい百科全書
  Couze Venn    ノッティンガムトレント大学 教授
   ・百科全書と知識の脱植民地化戦略
    (*都合によりCouze Venn氏の来日が中止されました。
    予定されていたVenn氏の報告内容は代読される予定です。)
  【討論】
  花田達朗     東京大学大学院情報学環 学環長
  龍澤武      平凡社 顧問
  柳 与志夫     千代田図書館 館長
  石田英敬     東京大学大学院情報学環 教授
  北田暁大     東京大学大学院情報学環 助教
   
18:00 閉会


Theory, Culture and Society誌,New Encyclopaedia Project

■ Theory, Culture and Society誌

文化社会学、文化研究の領域で、英国を中心にヨーロッパ全域にネットワークを広げる学術ジャーナル。Mike Featherstone教授が責任編集者の任にあり、ジョン・アーリ、ウルリッヒ・ベック、ブライアン・ターナーなど多くの研究者が加わっている。

■ New Encyclopaedia Project

現在、英国ノッティンガムトレント大学とそこを拠点に発行され、世界的な評価を受けているTheory, Culture and Society 誌(Sage Press)を基盤として、Mike Featherstone教授らにより進められているプロジェクトである。
このプロジェクトは、デジタル化やグローバル化、大学や高等研究教育機関をめぐる社会的な環境の変化、知識の市場化や教養の解体、新しいトランスナショナルで多言語的な研究教育環境の浮上といった状況のなかで、global knowledgeを探求し、その再定義を目指そうとしている。