平凡社=日立におけるデジタル百科全書の試みを振り返る

私ども東京大学大学院情報学環は、昨年度よりCOEに採択されましたが、その一環としてデジタル・ネットワークに媒介された新しい対話成長型のエンサイクロペディアの実験的構築を目指すプロジェクトを始動させています。これは、一言でいうならば、アカデミックな知識をめぐって今日のサイバースペースで生じている諸々の新しい状況を、これまでの人文知
(=教養・書物知の世界)を守るために拒絶するのではなく、むしろいかにすれば、そのようなサイバースペースのなかで人文知の厚さ、〈学問研究〉という実践が内包している認識の深まりを構造的に可視化し、学問を志す人々(海外も含めての若手研究者や学生、市民研究家たち)の共有財産としていくかに眼目があります。
そのようなわけで、下記のように、今年度の第1回の研究会を開催させていただくことにいたしました。この回では、かつて日立デジタル平凡社でデジタル百科事典の制作を進められた龍澤武さん(平凡社顧問)と、藤井泰文さん(日立システムアンドサービス コンテンツビジネス本部長)をお招きして、平凡社=日立のデジタル百科事典プロジェクトでやろうとしたこと、果たせた部分と果たせなかった部分、諸々の技術的な試みや困難、今、メディア状況が大きく変化したなかで、改めてこうしたプロジェクトを組み立て直すことがもしもできるなら、何がなされるべきなのかといった諸点について、お話しいただきたいと考えております。
みなさまご多忙とは存じますが、貴重な機会ですので、何卒お集まりいただきたく、よろしくお願い申し上げます。

本プロジェクトでは、引き続き、デジタル技術とポスト百科事典(メタアーカイブ)の
可能性について、何人かの先端的な試みをされている方々においでいただき、
お話をお聞きする予定です。
日 時 6月10日(金)18:30-21:00
場 所 東京大学大学院情報学環・学際情報学府 本館 6F会議室
テーマ 平凡社=日立におけるデジタル百科全書の試みを振り返る
報告者 龍澤武(平凡社顧問)
  藤井泰文(日立システムアンドサービス コンテンツビジネス本部長)
問い合わせ 東京大学大学院情報学環・学際情報学府 吉見俊哉研究室
追 記

みなさんがよくご存知のように、今日、インターネット上では、Yahoo!Google からWikipediaはてな、そして様々な分野で急速に進行している画像データベースやデジタルアーカイブ構築の動きまで、様々な形でわれわれの学問的な知の基盤が書物や書庫にあるという人文社会系の研究者にとって前提を根底から揺るがす動きが進んでいます。しかも、こうした動きと並行して、ネットのコミュニティや2ちゃんねる、ブログなどにみられるように、ネットに媒介された新しいコミュニケーションの回路が本格的に浸透しつつあります。もちろん、このような状況が進んでも、書物や書庫、資料庫の価値そのものが失われるわけではありませんが、それでもなお、人文知、書物知の基盤が地殻変動を起こしつつあることは認めざるを得ないと考えます。
このようななかで、単なるGoogle的な断片知識の集積でもなく、またWikipedia 的な知の権威に対する終わりなき脱構築というだけでもなく、これまで大学が集積してきた知の構造性や学問研究の方法論そのものをディスクローズしつつ知をその生成の場において脱構築していくようなツールとして、私どもは前記の新しいエンサイクロペディアを考えています。
別の言い方をするならば、これまでの大学での人文社会的な知識が、どのような対象と方法の往還、異なる語りのポジションや解釈の間での論争や対話、同じ概念をめぐる解釈のせめぎあい、それぞれの領域における資料的な厚みをもって生成しているのかをデジタル空間の構造として示し、またその共有を通じて新たな人文知や大学での横断的な教育の基盤にもしていきたいと考えています。