デジタル市民社会における"Global Knowledge"とは?

開催趣旨

現在、英国ノッティンガムトレント大学とそこを拠点に発行され、世界的な評価を受けているTheory, Culture and Society誌(Sage Press)を基盤として、Mike Featherstone教授らによりNew Encyclopaedia Project(以下、NEP)が進行中です。
このプロジェクトは、デジタル化やグローバル化、大学や高等研究教育機関をめぐる社会的な環境の変化、知識の市場化や教養の解体、新しいトランスナショナルで多言語的な研究教育環境の浮上といった状況のなかで、global knowledgeを探求し、その再定義を目指そうとしています。
したがって、Encyclopaediaといっても、目的はブリタニカ百科事典のグローバルなニューバージョンを生み出すことではまったくありません。むしろ焦点は、たとえば消費文化、モダニティ、メディア、知識、アーカイブなど特定のクラスターをめぐってグローバルな対話の空間を構築することに向けられています。このプロジェクトを中心になって進めているMike Featherstoneによれば、Transdisciplinaryな視点や対話的議論のプロセスを通じて、世界の様々な部分からの広い文脈によりクラスターやトピックスの記述がなされ、あたらしい知識の定式化と構造に到達することを目指すのだといいます。
もちろん、こうしたプロジェクトを西欧啓蒙主義の復活として批判したい人もいるかもしれません。しかし、管見では、 Featherstone氏らは、今日の市場主義的な知識の平板化とアメリカ中心のグローバル・スタンダード、人文的な知の崩壊、大学をめぐる困難な状況に危機感を抱いており、そうした困難な状況のなかで新しいテクノロジーを利用してのオルタナティブな可能性として、このプロジェクトを推進していることを理解すべきだと思っています。
彼自身は、NEPの基本的な問いを、「Global educationの意味は? われわれはどのように、global公共空間で生きてゆくことのできるのか? 商業文化やDiscovery Channelによって提供されるだけでなく、global multicultureや見過ごされてきたglobal historiesや系譜学によって扱われてきた共通知識の貯蔵をどのように発展させればよいのか? こういったことから、われわれはリソースを提供するために人類の知識のデータベースについてまた、global公共空間に活発に参加することのできる市民に良い教育を提供するためのマップについて再考する必要がある」と書いています。
今回、 Featherstone氏らNEPのメンバーの来日にあわせて企画したこのラウンドテーブルのワークショップでは、このような Featherstone氏らのプロジェクトについて紹介していただきつつ、とくに、今日のグローバルな情報化のなかでの大学のあり方や専門的な知識のあり方、教育のあり方などについて議論していきたいと思います。また、そうした文脈で、どのような学問的ネットワークや制度、アーカイヴ、実践が必要なのかについても具体的に考えていきたいと考えています。
テーマは壮大で深刻ですが、ワークショップそのものは、気楽な談論の場としたいと考えています。どうか、大学院生、若手研究者のみなさんをはじめ、上記のテーマ、パネリストのどちらかに関心のあるみなさんは、ぜひご参加ください。お待ちしております。

日 時 2004年10月10日(金) 16:30-19:00
場 所 学士会分館 6号室 (文京区本郷 東大赤門脇 Tel: 03-3814-5541)
パネリスト Mike Featherstone
ノッティンガムトレント大学Theory, Culture & Society誌 Chief Editor)
  Couze Venn (ノッティンガムトレント大学・TCS、オクシデンタリズム論)
  石田英敬東京大学記号学
  上野千鶴子東京大学社会学
  川崎賢一 (駒沢大学社会学
  毛利嘉孝九州大学、文化研究)
  吉野耕作 (東京大学社会学
司 会 玉利智子 (ノッティンガムトレント大学
  吉見俊哉東京大学社会学・文化研究)
お問い合わせ 東京大学社会情報研究所 吉見俊哉研究室